飾るをもっと楽しく、美しく。暮らしに寄り添う「フレーム」の魅力

飾るをもっと楽しく、美しく。
暮らしに寄り添う「フレーム」の魅力

Out of frames / Behind the Service vol.1

FROM_SOMEWHEREでは、写真のある暮らしをもっと身近に、もっと自分らしく楽しんでもらえるよう、3つの飾り方を用意しています。

そのひとつが、「Wood Frame」。

風景写真の魅力を引き立て、どんな空間にもやわらかな温かみをもたらしてくれる存在です。

このWood Frameは、広島県府中市のフレームメーカー「伝統工芸株式会社(通称:DENTO)」に、オーダーメイドで制作していただいています。

日々、ものづくりに向き合う職人さんたちとともに、何度も話し合いを重ね、理想のかたちをつくり上げました。

普段はあくまで写真の引き立て役として控えめな佇まいを見せるこのフレーム。

ですが今回は、その静かな存在感の裏側にある、ものづくりの背景に目を向けてみたいと思います。

「どうやって作られているのか」
「どんなこだわりが込められているのか」

写真を飾るという体験の奥行きが、少し広がるといいなと考えています。

 

書と旅が交差する町で。DENTOが継ぐ額縁の文化

DENTOが拠点とするのは、広島県府中市の上下町(じょうげちょう)。

かつてここは、瀬戸内海の港町から中国山地を越え、石見銀山へと至る「石州街道(せきしゅうかいどう)」の宿場町として栄え、江戸時代には幕府直轄地(天領)として代官所(地方行政を担う役所)が置かれていました。

この上下町には、中国山地の尾根筋に沿って南北に水を分ける分水嶺(ぶんすいれい)が存在しています。南へ流れれば瀬戸内海へ、北へ流れれば日本海へと注ぐというこの地理的特性は、物資や旅人が行き交う交通の要衝であったことを象徴しています。自然と文化が交わるこの地は、物流の中継地として発展するとともに、さまざまな文化が流れ込む場にもなりました。

そうした交流の中で、上下町を含む府中市には、古くから書道文化が根づいていきました。明治以降も書をたしなむ風土は続き、そうした文化的な土壌の中から、額縁づくりという産業が生まれました。また、府中市は林業が盛んで、木工技術に長けた職人も多かったため、額縁づくりは地場産業として定着していきました。

こうした背景のもと、1983年に創業したのがDENTOです。

しかし、バブル崩壊後に状況は一変します。アート市場の縮小に加え、大量生産された安価な製品が流通するようになり、額縁づくりは厳しい局面に立たされました。

そんな中でも、DENTOは経済合理性の波に飲まれることなく、自ら培ってきた額縁づくりの技術を家具づくりに応用し、オリジナルブランドを展開。新たな挑戦を続けながらも伝統を守り、妥協のないものづくりを今も続けています。

 

受け継ぐ覚悟と、変える勇気。DENTO三代目の挑戦

現在、DENTOの代表を務めているのは、3代目の服巻年彦(ふくまき・としひこ)さん。以前はイタリア料理のレストランでシェフとして働いており、いわゆるものづくりの現場とは異なる世界に身を置いていました。

「DENTOをやっていたのは、妻の実家なんです。でも、かたちは違えど、何かをつくるということは一緒だし、それが好きなんですよね。ひょんな理由から関わることになりましたけど、家具も好きだったし、今も楽しくやっています」

服巻さんは明るく語りますが、その裏には大きな苦労もあったはずです。入社は1989年。額縁の価値が大きく変わり始めていた時期でした。

「DENTOのある府中市は、日本でも有数の額縁の産地です。今でも、日本で生産される製品の約50%のシェアを占めていますが、産業としてはかなり衰退してしまい、ほかのメーカーさんは次々と廃業していきました」

そんな服巻さんも、DENTOに加わったのち、すぐに代表に就任したわけではありません。木材の選定から加工、塗装、仕上げまで、すべての工程を一から経験し、頭でも体でもものづくりの経験を重ねていきました。そして2014年、正式に代表に就任。技術を習得する過程には、相当な努力があったに違いありませんし、長年積み重ねられてきた伝統を守りながら、それを時代に合わせて進化させていくという役割は、決して容易なことではなかったはずです。

「社内メンバーにも家具好きがいるので、ずっと『家具ブランドのようになりたいね』と話していました。ただ、DENTOの歴史を踏まえると、『家具ブランドになってしまってはいけない』という想いも、同じくらいありました。これまでの額縁の概念を超えて、より多くの人にフレームを楽しんでいただくフレームメーカーとして活動していくことに踏ん切りがついたのは、ここ2〜3年のことです」

それでも、服巻さんがここまで歩んでこられたのは、きっと異なる世界を知っていたから。異なる視点を持つことこそが、DENTOというブランドの未来を切り拓く原動力になっているのかもしれません。

 

目立たない美しさのために。DENTOのフレームづくり

DENTOのフレームづくりは、服巻さんをはじめとする職人さんたちの手によって、木材を見極めるところから始まります。

使用する木材は、ウォールナット、チェリー、オークの3種類。いずれも広葉樹で、針葉樹と比べて密度が高く、丈夫で、湿気による膨張や収縮が起こりにくいという特徴があります。長く使うものだからこそ、素材選びには一切の妥協がありません。

木材が決まったら、次は「材料出し」と呼ばれる工程へ。作りたいフレームのサイズに合わせて板を切り出す作業ですが、ここには熟練の技が光ります。柾目(まさめ)や逆目(さかめ)など木目の流れを見極め、節や割れが出ないよう慎重に裁断。どの方向からどう切るかでフレームの美しさと耐久性が決まるため、木と向き合ってきた時間がそのまま精度につながる仕事です。

切り出された材料は、「ムラ取り」と呼ばれる工程で、反りやねじれを整えます。「板という漢字は“木が反る”と書くように、木は生き物だから、必ず歪みが出るんです」と服巻さんは語ります。普段、私たちは“まっすぐな線”を見慣れてしまっているため気づきにくいのですが、自然界に完全な直線は存在しません。一見すると簡単そうに見えますが、実はとても手間と労力のかかる作業なのです。

続いて、木材は棹(さお)と呼ばれるフレームの部材へと加工されます。溝を掘って不要な部分を落とすことで、フレームの形が徐々に姿を現してきます。「ヨーロッパでは棹をつくる専門の業者があるほど、フレームづくりは分業制。でもDENTOでは、最初から最後まで自分たちでやっています」と服巻さん。

糊がはみ出しても見えないように溝を工夫したり、0.1ミリ単位で寸法を調整したりと、細部にまで気を配りながら作業は進みます。フレームは構造がシンプルなぶん、ごまかしが利かず、わずか0.1ミリのずれが全体の歪みや隙間につながることもあります。だからこそ、ほんのわずかな誤差も許されない精密さが求められるのです。

なかでも棹を選ぶ作業は、特に難易度の高い工程のひとつです。木目の流れや濃淡のバランスが整っていないと、フレームを組んだときに違和感を与えてしまいます。四辺すべての調和を考えながら、どの部材をどの位置に使うかを決めていく必要があります。しかも、この工程で判断を誤れば、せっかくの部材が無駄になってしまうことも。職人のあいだでは「経験が浅い人ほど材料を無駄にする」と言われるほど、経験と感覚がものをいいます。

棹ができあがると、フレームとして組み上げるために両端を45度に裁断。角を合わせたときにぴたりと90度になるよう、あえて0.1ミリ大きめに切り、1日寝かせて収縮を見越して調整するという工程も含まれます。組み立ての際は、接着剤で棹を固定し、その後、耐久性を高めるために「チギリ」と呼ばれる補強材を溝に埋め込みます。乾燥を待ってから余分な部分を削り落とし、ようやくフレームのかたちが整います。

 

暮らしに寄り添う、フレームのかたち

フレームがつくられる過程の裏側には、目には見えないほど繊細な配慮と、長年にわたって受け継がれてきた職人さんたちの技と哲学が、静かに息づいています。ぱっと見るだけではわからなくても、単純なかたちの中に、素材への理解と敬意、そして妥協のない仕事の積み重ねが込められているのです。

FROM_SOMEWHEREのフレームは、木のぬくもりや自然の風合いを大切に、木そのものの質感を活かした「ソープフィニッシュ」で仕上げています。肌に触れたときのやわらかな手ざわりや、時を重ねるごとに深まっていく色合いもまた、日々の暮らしの中で感じていただける魅力のひとつです。

見た目はあくまで静かで控えめ。それでも、そこには「美しさを支える」という強い意志と、細部へのまなざし、決して手を抜かない姿勢がしっかりと刻まれています。暮らしの中にさりげなく寄り添いながら、ときに思い出を、ときに景色を、そっと引き立てる存在として。

使うほどに深みを増し、ふとした瞬間に心をととのえてくれる ── そんなフレームであれたらと、私たちは願っています。

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