
試行錯誤の末に辿り着いた、理想のフレームとは?
【DENTO × FROM_SOMEWHERE 対談】
Out of frames / Behind the Service vol.2
FROM_SOMEWHEREで用意している「Wood Frame」は、広島県府中市にあるフレームメーカー「伝統工芸株式会社(通称:DENTO)」に、オーダーメイドで製作していただいています。
木の質感を活かしながら、空間にさりげない温かみを添えるこのフレームは、写真とともにある日常を、より心地よいものにしてくれる存在です。
別の記事では、DENTOが受け継いできたものづくりの歴史や、繊細な手仕事の積み重ねについてご紹介しました。
そうした背景のもとで、FROM_SOMEWHEREの「Wood Frame」はどのようにしてかたちづくられていったのでしょうか。
デザインの方向性やサイズ、木の種類、仕上げの風合いに至るまで ──。細部にわたるやりとりを重ねながら、ひとつの理想のかたちを探していく過程には、「飾る文化」を広めたいという共通の想いがあったからこそ、分かち合えた視点と感覚がありました。
今回は、DENTOの代表・服巻年彦さんと、FROM_SOMEWHEREの代表・白石弘毅による対談をお届けします。お互いの立場や専門性を越えて交わされた対話から、フレームづくりの背景を紐解いていきます。
暮らしの中で、フレームはどうあるべきか?
おふたりが出会ったのは、どんなきっかけだったのでしょうか?
白石共通の知人がいて、その方の紹介でDENTOさんのツアーに参加したんです。
服巻観光と産業を組み合わせたツアーで、最後にオリジナルのフレームをつくるワークショップがあった。白石くんみたいなこだわりの強い人がたくさん来てました(笑)。
白石上下町を1泊2日で案内してもらって。そこで服巻さんと話すことになりました。参加者それぞれが、思い思いのフレームを作っていて。
服巻立体物を飾りたいって人もいたし、本当にいろんなタイプの人がいました。
白石あのときの服巻さん、かなりお疲れでしたよね(笑)。
服巻うん、完全に1,000本ノック状態だった(笑)。
白石でも、あの場で「ここを削ったら全体が崩れる」とか、「無理のある構造にはできない」とか、そういう設計の話をして。できることとできないことを、すごく具体的に話した記憶があります。
服巻いや、ほんとに。「この人、何言ってるんだろう?」って……見た目はすごく丁寧なんだけど、話してる内容がめちゃくちゃえげつない(笑)。フレームとの距離感とか、そんなこと言ってくる人いなかったから。
白石距離感って、ずっと意識してたんですよね。写真の展示会をした経験があるので、見る距離が変わると作品の印象も変わる。都内のような限られた空間で飾るか、地方のような広がりのある空間で飾るかによっても求められるフレームの雰囲気が変わるなと感じていて。だから、「フレームをどう作るか」だけにとどまらず、「どう暮らしに馴染むか」「どう存在するか」ということにも関心がありました。
服巻ほとんどの人は「ナチュラルで」「余白をいい感じに」ってふんわりオーダーしてくるけど、白石くんは生活のことも、作品のことも、空間のことも、全てをつなげて考えていた。ここまで言語化して伝えてくれる人って、いなかったです。
白石でも実際に制作が始まってから、少し間が空いちゃったんですよね。僕がなかなか動けなかったのもあって。
服巻でもその間も、東京でイベントがあるたびに会って、情報交換してたよね。
白石はい、ずっとつながっていた感じがあったので、プロジェクト自体は止まってなかったと思っています。いろんなアドバイスもいただきながら、少しずつ進んでいきました。
視線を奪わず、印象を整える
「距離感」や「存在感」が話に出てきましたが、おふたりがフレームに込める考え方は、どんなものでしたか?
白石フレームの主張が強すぎると、作品とのバランスが崩れてしまう。そんなふうに感じていました。僕がやろうとしていたことは、いろんなフォトグラファーの作品を扱い、いろんな人の暮らしに届けていくこと。だからこそ、それぞれの作品にも、それぞれの空間になじむ形にしたかったんです。
服巻なるほどね。確かに白石くんは「A4やA3サイズであれば近くで見ることが多いから、そこでの印象が大事なんです」と言っていたよね。その視点はすごく新鮮だった。
白石遠くから見る印象と、近くで見る印象って違いますよね。その距離の中で、フレームがどう見えるか、どうあるべきかを考えていました。自分の感覚だけじゃなくて、空間の中でどうふるまうかという視点です。
服巻僕たちは家具の一部としてのフレームという考え方もあって、インテリアとしての統一感も意識しています。だから、あえて厚みをもたせて、奥行きのあるものにして。木材も家具と揃えることで、空間にちゃんと存在感を持たせたいと思っていた。
白石そこがすごく面白かったですね。僕はむしろ、削る方向で考えていたので。フレームが持っている役割を見つめ直し、どこまで主張を抑えることができるか。でもそれって、ただ細くすればいいわけではなくて、ちゃんと強度もなきゃいけないし、見え方も考えなきゃいけない。
服巻極限まで薄いフレームも試しました。
白石でも、構造上無理を強いてしまい、DENTOとしてのアイデンティティがなくなっている気がして、、これは違うなと思ったんです。これをやってしまうと、一緒にやっている意味がないなと思ってしまって。
服巻細くはしたいけど、お互いのブランドとしての“らしさ”は残したい。そのバランスが難しかったよね。
白石あと、難航したのは、やっぱり色ですね。素材にこだわっているからこそ、塗ることで既製品っぽさが出てしまう。でも、そのままの木の色だと、赤や黄色みが強くて、合う作品が限定されてしまう。木のぬくもりや質感と、いろんな作品に合うことを両立させたかったんです。塗料の濃さも何度も調整して、いろんな木製品を見ながら、ようやく今のソープ仕上げにたどり着いた。
服巻最初、白を試してみたんだよね。実際に部屋に置いてみたけど、やっぱり違和感があって。それでやめました。
白石作っては飾って、飾ってはフィードバックをして……みたいなことを繰り返してましたね。存在感を抑えながらも、なくしすぎない。その微妙なところを探る作業は、ほんとに難しかったけど、だからこそ意味があった気がします。
飾ることから始まる、暮らしの表現
「飾る」という行為について、おふたりはどのように捉えていますか?
白石手頃なフレームを目にすることも増えてきました。でも、飾るって自己表現のひとつだと思うんですよね。たったひとつ壁に飾るだけで、「この人はこういうものが好きなんだな」と伝わってくる。だからこそ、せっかくならフレーム選びにもこだわって、自分の“好き”を飾るのにぴったりのフレームで、その時間や行為そのものを楽しんでほしいと考えています。
服巻うん。フレームって、ただ写真や絵を保護するためのものじゃないんですよね。その人が何を大事にしてるかがにじみ出てしまう。でも現実問題としては、賃貸だと壁に穴を開けられないとか、物理的なハードルもある。
白石飾る手段自体は、今では検索すればすぐ見つかります。でも、「なぜ飾るのか」「何を飾りたいのか」という動機に繋がるものには、なかなか出会えない。だからこそ、自分が「飾りたい」と思えるものに出会えたときに、その想いをきちんとすくい上げて形にするためにも、僕は作品とフレームがセットになっていることに意味があると感じていて。入口として、それがすごく大事だと思う。
服巻うちも最近は、フレームだけではなく作品も一緒に提案するプロジェクトをやろうと思っている。フレーム単体で見せるより、「これを飾りたい」と思わせる中身とセットになっている方が、お客さんにとっても自然なんだよね。
白石飾ることを日常の中に取り入れていくには、フレームだけでなく、その周辺の提案も必要になってきますよね。
服巻まさにそう。インテリアの一部としてフレームを捉えるだけじゃなくて、「このフレームがあるなら、部屋はこうあってほしいよね」というふうに、全体から考える。最近はそんな感覚が強くなってきていて。だからこそ、FROM_SOMEWHEREのようなサービスと一緒に、中身をつくってもらって、そのためのフレームを提案していくっていうやり方に可能性を感じています。
白石フレームに作品を入れることで、「こんなにも印象が変わるんだ」と驚いてもらいたいんです。そういう体験が、飾ることの魅力を伝えてくれると思っていて。だから、このプロジェクトがその最初の驚きになれたら嬉しいです。
プロダクトを作るうえで、価格の設定は避けて通れない部分かと思います。そのあたり、どう向き合ってきたのでしょうか?
白石最初から、「これくらいの価格で届けたい」というラインはお伝えしていました。初めてフレームを買う人にも手に取ってもらえるように、でも上質なものであることは妥協したくない。だから、その両立ができるかどうか、ずっと模索していました。正直、途中で「ほんとに大丈夫かな……」と思うこともありました(笑)。
服巻うちのほうからも、「その価格でやるなら、これくらいのロットを出してもらわないと難しいですよ」とか、かなり現実的な話もさせてもらいました。でも、お金の話って、信頼がないとやりづらい。でも白石くんとは、そこをちゃんと率直に話し合えた。
白石DENTOさんとは、単なるOEMの関係ではないんですよね。こういう価格で届けたいという思いも含めて、一緒に最適なやり方を探すパートナーだった。だからこそ、協力してくれていることが、本当にありがたかったです。
服巻こっちとしても、一緒にやっていて楽しかったし、チームのような感覚がありました。
白石やっぱり「飾る」という行為そのものに対して、僕たちは何かを提案したいと思っている。その思いを共有できていたからこそ、単なる取引ではない関係が築けたんだと思います。
これから先、おふたりが「飾る」という文化に対して、どんなことをしていきたいと考えていますか?
服巻まずは、もう少し気軽に飾れる方法を増やしていきたいと思っています。FROM_SOMEWHEREとのプロジェクトの中で出てきたアイデアなんですが、クリップ式フレーム「Minimal Print」をしっかりと作りたい。これはフレームじゃなくて、もっとカジュアルな入口になるもの。
白石台紙だけでも成立するし、でもやっぱり作品だから保護もしたい。そのときに「ちょうどいい方法」がないかと考えて、服巻さんに相談したのがクリップ式フレームのきっかけでした。実際に展示会で出したときも評判が良くて、「これなら気軽に飾れる」という声が多かったんですよね。
服巻まだまだ改善の余地はあるけど、そういうエントリーモデルがあることで、最初の一歩が踏み出しやすくなるんじゃないかと感じています。
白石あとは、大きいサイズ —— A1やA2の展開も構想中です。最初に相談した時は「このままの構造では難しいよ」と言われました(笑)。FROM_SOMEWHEREで販売しているものは、気軽に楽しむことができるフレームです。でも、本物志向の人にもしっかり響くようなものを作っていきたい。A1やA2は、そのために必要だと思っています。明確に好きなものを持っていて、それを飾りたい人がいる。その人たちに向けた提案もしていきたいですね。
最後に、これからFROM_SOMEWHEREで風景写真を購入する人たちへ、ひとことメッセージをお願いします。
服巻僕らは作品をつくることはできない。でも、それを受け止めるものとして、できることはたくさんあると思っている。家具屋ではないし、単なる道具屋でもない。フレームが真ん中にあって、それを軸にいろんな価値が広がっていく —— そういう活動を、これからも続けていきたいですね。
白石DENTOさんと一緒にやっていること、そしてFROM_SOMEWHEREのこのプロジェクトは、飾ることを始めるきっかけになればいいなと思っています。一度飾ってみたら、きっと「2個目もほしいな」とか「また別のものを飾ってみたいな」と感じてもらえるんじゃないかと思っていて。。自分の好きがある暮らしって、やっぱり良いですよね。DENTOさんのフレームは、その暮らしにちゃんと存在感を持って寄り添ってくれるはず。初めての一歩として、本当におすすめです。