日常の隙間に、一息を置く
Out of frames / ikkaku vol.4
「何かを飾る」という行為に込められた物語に焦点を当てたikkaku(一角)シリーズ。
自然と生まれた一角にはその人らしい味わいがあり、好きを並べた一角には深堀りしたい魅力がある。
写真や絵、オブジェ、本など、ジャンルを問わず、暮らしの中でふと目が留まるお気に入りの一角について、さまざまな方にお話を伺っていきます。
今回お話を伺ったのは、コピーライター・詩人の若尾まことさん。本や作品との出会いを通して思考を可視化しながら、日々の暮らしに小さな余白を置く大切さについて語ってくれました。

この棚にはいつも自分の目に触れておきたいものを置いています。
少し疲れたり煮詰まったりしたらここの本を読んでインスピレーションをもらうことも。基本的に飾るものは大きく変えたりはしないのですが、本は購入した時やその時期の気分で入れ替えたりしています。今飾っている一冊は岡山のギャラリー・ショップCCCSCDで出会ったもので、ホンマタカシさんがル・コルビュジエ建築の窓をとらえた写真集です。地方の本屋のラインナップが結構おもしろかったりして、よく旅先で本を買ってしまいます。
ネットでいつでも買える時代なので、今ここでしか買えない、というきっかけがないと買う気にならないというのがあるかもしれません。

この写真は自分が本を制作するきっかけにもなった一枚です。友人であり写真家の田野英知さんの作品なのですが、この馬の写真を見て彼と一緒に何かつくりたいなと思ったんです。

その後、瀬戸内の方に縁があり、田野さんと共に滞在制作のような形でそれぞれ写真と詩の作品をつくり、それらを編集して『汽水』という本をつくりました。
隣には、展示用に『汽水』の言葉を抜粋してつくった作品も置いています。

実は祖母も趣味で短歌を書いていたんです。生前あまりその話をしなかったことが悔やまれるのですが、去年、祖母の遺した短歌の原稿ファイルを見つけて心を打たれ、自分で編集と装丁をして小さな歌集をつくりました。表紙と中の挿絵も祖母が描いたはがき絵。これを見ると自分が詩を書くというルーツを再認識できるんです。

玄関の一角には書家の加山幹子さんの「し」という作品を飾っています。「し」には様々な意味があるという作品のコンセプトと、ひらがなの力強い美しさに惹かれました。私自身も日本語や詩と共に生きていくという覚悟を忘れないようにという思いも込めていつも目にする場所に置かせてもらっています。

壁に飾っているのは表参道の骨董通りを歩いていた時にアートギャラリーの窓越しに惹かれた作品で、聞いてみると李禹煥(リ・ウファン)のものだったんです。1970年代の「From Line」というシリーズの版画なのですが、“無為”の境地を思わせるこの線のような心を持っていたいと思い、初めて美術品を購入しました。毎日の生活の中に、適度な緊張感と、一呼吸できるような余白を与えてくれています。
こうやって話していると自分の思い入れのある作品に囲まれて、日々静かな刺激をもらっているんだなと実感します。幼い時から、どんな家に住んでいても、自分だけの“一角”みたいな場所は常につくっているかもしれません。例えば勉強机の角に石とかオブジェを置いて祭壇を作っていたりとか。昔から自分の思考や好きなものを可視化するというのを無意識に大事にしていたんだと思います。

FROM SOMEWHEREさんには好きな写真家さんが集まっていてサイトを見ている時間が楽しいですね。私は、出会った時にびびっときたら買ってしまうことが多いので写真やフレームを実際に目に触れることができるリアルな展示もあったら楽しそう、と思いました。
「好きなものを可視化する」という彼女の言葉の通り、それぞれの一角にはその瞬間の感性や記憶が形となって漂っていて、そこでゆっくり呼吸をするようにやさしい時間が流れていました。
ブランドや企業における言葉づくりに携わる。2021年、写真詩集『汽水』を出版。
Web : https://makoto-wakao.studio.site/
Instagram : @ma_wakao
Interviewer&Text: Maico Nishikoji(saicorom Inc.)
Photographer: Nanako Koyama