最後の決め手は、写真の奥にあった。── Share Your View vol.1 選考会レポート

最後の決め手は、写真の奥にあった。
── Share Your View vol.1 選考会レポート

Out of frames / Share Your View vol.1

風景写真のオンラインストア「FROM_SOMEWHERE」と、旅のメディア「PAPERSKY」がともに始めた「飾る国立公園」プロジェクト。その第一弾として、中部山岳国立公園を舞台に開催したフォトコンテスト「Share Your View」には、1,000点を超える作品が寄せられました。

上高地の澄んだ水、涸沢の朝、稜線の風、山小屋の灯り。ひとつの国立公園を、こんなにも多くの人が、こんなにも違うまなざしで見つめていたのか。届いた作品をひらくたびに、そう驚かされる日々でした。

まずは、大切な一枚を寄せてくださったすべての皆さまに、心から感謝をお伝えします。

この記事では、その1,000点を超える作品のなかから、グランプリと3つの賞が決まるまでの選考会の様子をお届けします。それは審査というより、「風景を飾るとはどういうことか」をめぐる、長い対話の時間でした。

1,000点から、50点へ

初夏のある日、オンラインと対面をつないで、選考会が開かれました。集まったのは、FROM_SOMEWHERE 代表の白石弘毅、PAPERSKY 編集長のルーカス B.B.、フォトグラファーの西山勲をはじめとするメンバーたち。手元には、候補作のプリントが並びます。

この日を迎える前に、各メンバーはそれぞれ10点ずつ、心に残った作品を選んでいました。ふたを開けてみると、選んだ作品はほとんど重なっておらず、候補はおよそ50点にのぼりました。

同じ国立公園の風景を前にして、これだけ「良い」が割れる。困った事態のようでいて、実はこのプロジェクトの本質が、最初から顔をのぞかせていたのだと思います。写真の見方は、その人の暮らし方や、自然との付き合い方そのものだからです。

だからこの日の選考は、票を数えることからではなく、それぞれが「なぜその写真を選んだのか」を語ることから始まりました。

それぞれの「選ぶ基準」

ルーカスの基準は、誰が撮ったかではなく、自分の家に飾ったときに気分が良いかどうか。ふと目をやったときに、心地よい空間をつくってくれる一枚かどうか、という視点です。

西山が目を向けたのは、写真に添えられた「ことば」でした。その一枚が撮られるまでに、どんな時間があったのか。何に心を動かされてシャッターを切ったのか。写真の奥にあるストーリーにこそ、その人だけの風景が宿っている、というまなざしです。

白石は、「その場所に行ってみたくなるか」という視点を挙げました。写真を飾ることが、まだ見ぬ土地への入り口になる。このプロジェクトの原点につながる基準です。

飾ったときの心地よさ。写真の奥にあるストーリー。そして、旅へと誘う場所性。

三つの基準は、ばらばらのようでいて、実はひとつのことを指しています。毎日の暮らしのなかに掛けて、長く付き合っていける風景を選ぶ、ということ。飾る写真は、一瞬のインパクトで勝負が決まる写真とは、少し違う時間軸を生きているのです。

写真の奥にある、ことば

対話のなかで、話題はたびたび、中部山岳国立公園という場所そのものに及びました。

優しい自然と、険しい自然。そのどちらもが同居する、日本の真ん中の山々。なかでもこの公園を象徴するのが、上高地に流れる、あの透きとおった水です。あの水辺に立ったときの、空気が少し引き締まるような感覚。写真を前に、それぞれが自分の記憶のなかの風景を重ねていきました。

一枚の写真が、見る人の記憶を呼び覚ます。それなら、撮った人の記憶はどこにあるのか──。その答えが、作品に添えられたストーリーでした。

爆風のなか、自分たちで決めたルールに従って、山頂を目前に引き返した話。山で働きながら見つけた、小さな景色のこと。文章を読んでから写真に戻ると、同じ一枚が、さらに深く見えてくる。

写真を選ぶ場だったはずの選考会は、いつしか、一枚の風景の向こうにある誰かの時間に立ち会う場になっていました。

4つの賞が決まるまで

長い対話の末、まずは3つの賞が決まりました。

「西山勲賞」は、山小屋でアルバイトをしながら、また山好きの友人たちと歩きながら撮られた一枚に。フィルムで撮って、忘れた頃に現像する。すると「自分が見た景色のようで、そうじゃないような、ふしぎな追体験」ができるのだと、応募のことばに綴られていました。決めようとしすぎない、ふとした瞬間のシャッター。山で暮らす人にしか見えない景色が、そこにありました。

「FROM_SOMEWHERE賞」は、大きく割れた岩を捉えた一枚に。この岩はいつからここにあって、何があってこの姿になったのか。見るほどに、自然の時間への想像が膨らんでいく。身構えずに自然を歩くなかでの気づきが、そのまま写真になったような作品です。

「PAPERSKY賞」は、水の透明感が印象的な一枚に。コンテストの受賞作としては、いい意味で予想を裏切る一枚。それでいて、部屋に飾れば長く見飽きることのない力を持った作品でした。

そして、グランプリ。

最後に選ばれたのは、表銀座ルートの山小屋、ヒュッテ西岳からの景色を捉えた一枚でした。

添えられていたのは、こんなストーリーです。初めて北アルプス・槍ヶ岳に登ったのは、小学4年生の夏。それから毎年、夏が来るたびに、あらゆるルートを父親と登った。やがて自身の山小屋での生活が始まった年に、父は難病を患い、2023年に他界。父との思い出の詰まったヒュッテ西岳から、毎日この景色を見ている──。

10歳のとき、この景色に人生観を変えられたのだと、その人は書いていました。「世界は広い。美しい。自分の目で見るに値する」。

写真そのものの圧倒的な美しさに、まず全員の目が留まりました。

けれど決め手になったのは、文章を読み終えたあとの、あの静けさだったように思います。飾りたくなる心地よさも、その場所へ行きたくなる引力も、写真の奥にある物語も。選考会で語られてきたすべての基準が、この一枚のなかで、ひとつに結ばれていました。

 

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Credit
Text: Shotaro Kojima(comorebi farm)
Photographer: fujico
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